筆者:秋廣泰生
ライター/映像演出家。元・円谷プロ製作部所属。1980年代後半より、ウルトラマンシリーズをはじめ、円谷プロ作品の映像商品の制作や、出版物、CDの構成執筆を手掛ける。VHS時代の再編集ビデオの殆どで編集・演出を担当。テレビ番組演出は『ウルトラマンボーイのウルころ』『ウルトラマン列伝』など。
大怪獣シリーズにゴルゴン星人が操る再生怪獣、サラマンドラが登場!
今回は『ウルトラマン80』第13話「必殺! フォーメーション・ヤマト」に初登場した再生怪獣サラマンドラの登場です。
世界各国のUGMキャップを手にかけていったドクロ怪人ゴルゴン星人が操る怪獣で、都心の高層ビル密集地帯で大暴れします。
唯一の弱点である喉を攻撃する以外、サラマンドラを倒す方法はありません。しかも喉は前傾した頭部に隠れ、防護されている状態であるため、頭部を上に向かせなければ喉が攻撃出来ません。
そして喉を攻撃出来たとしても、サラマンドラは、細胞の一片が残っていれば、ゴルゴン星人がすぐさま元の姿に再生させてしまうという、まさに難敵中の難敵です。
サラマンドラという怪獣ネーミングの由来は不明ですが、両生類の中にも似た名を持つものがいますし、頭部の後方に伸びた突起がいくつもあるところについては、外見的な共通点を備えた両生類も存在しています。
また、サラマンドラには再生能力がありますが、一部の両生類にも再生能力があるなど、諸々の要素がイメージの源泉になっているのでは?と思うことがあります。
一方でサラマンドラの頭部は両生類とは一線を画し、まさしく強敵怪獣らしいコワモテですが、これはデザイン画にキングギドラの様に怖くするよう指示があることをご存じの方もいらっしゃるでしょう。第13話の特撮監督は、後に『ゴジラvsキングギドラ』の特撮を手掛けた東宝の川北絋一監督でしたから、こうしたところ等々から、川北監督のイメージする強い怪獣・怖い怪獣のルーツを辿ることが出来るのかもしれません。
なるほどサラマンドラの傍若無人な大暴れっぷりは圧倒的! これぞ怪獣大特撮と呼ぶに相応しい場面の連続です。
また、第13話はUGMの大型母艦スペースマミーの初の本格的活躍が描かれることでも知られ、現在の様にSNSが発達していれば “神回” として、即バズること間違いなしでしょう。
ですが1980年当時は、放送後の反響が広く伝わったり、共有される術が殆んど皆無。加えて当時の児童向け月刊テレビ雑誌では、毎週登場してくる新怪獣にスポットを当てる特集が常でしたから、サラマンドラが振り返られる機会もないままで、更に『ウルトラマン80』の放送終了後には、オリジナル新怪獣よりもバルタン星人やゴモラⅡ、レッドキングが注目されがちで、もちろんこれらの怪獣たちも『80』の魅力ですが、リアルタイム視聴してきた自分としては、なんとも寂しい思いがありました。
そんなところへ『80』のレーザーディスク化の話が持ち上がります。時に1989年。浅香唯さんのCDやPVを発売していたハミングバードさんからのリリースで、いち早く『80』をアナログ特撮の最高峰と評価してのものでした。
この時、たいへんありがたいことに、時の円谷プロ営業部より『80』リアルタイム世代ということで指名がかかり、レーザーディスクとVHSビデオの同時発売ということで、ジャケットや解説書などの印刷物まわり、それぞれのフォーマット編集による完パケ製作を拝命しました。
そこで! ここぞとばかりに『80』を代表する怪獣だぞ!と、レーザーディスク発売直前に制作することになったプロモーションビデオでは、(特撮の見応えある怪獣たちと共に) サラマンドラの猛威を大量投入! レーザーディスク封入の解説書には写真をふんだんに、可能な限り大判で掲載していきました。
これが効を奏したのかどうかは分かりませんが、サラマンドラの復権が叶ったが如く、後に、時のウルトラ怪獣ソフビシリーズで、ギコギラーとサラマンドラが新規造形でラインナップに加わった時には (全く手前味噌な感慨ながら) もう、感無量の一語でした。
しかも! 令和の世に栄えある〈大怪獣シリーズ〉でサラマンドラの堂々ラインナップです。もう何度でもサラマンドラには甦っていただきたいと思います‼ (笑)。
それでは〈大怪獣シリーズ〉サラマンドラに話を移しましょう。
今回、原型を担当したのは外島孝一さん。円谷プロでの番組制作では、秋廣が演出、外島さんがナレーターやスーツアクターとして、よくお世話になっています。この夏も互いに『80』関係の仕事に関わり、スタジオで丁度入れ替わりになった時、外島さんにサラマンドラの原稿を書かせていただくご挨拶をしたりしました。
また『ウルトラセブン1999 最終章6部作』では秋廣が選曲、外島さんがスーツアクターと、ちょっと変わったお付き合いもありました。
このほか外島さんはウルトラ系食玩フィギュアの原型も手掛けるなど、とにかくマルチな活躍は素敵です。脱帽です!
それでは外島さんの手掛けたサラマンドラについてですが…ひと目見てビックリしたのが、全体形状の再現度です。
劇中のサラマンドラは比較的痩身なのですが、これまで発売されてきたサラマンドラのソフビや塩ビ人形 (←いわゆる “消しゴム怪獣” ) などの立体物は (当たり前ですが) 玩具的アプローチで、全体的に立ち姿がゆったりと安定感がある印象でした。
令和の世の〈大怪獣シリーズ〉サラマンドラは、そこを飛躍的に突破。筆者がサラマンドラに個人的に抱いている、蛇の様な怖さ、しなやかさを見事に宿していると感じました。
『ウルトラマン80』が製作・放送されていたのは文字通り1980年 (昭和55年) ですが、この数年ほど前から造形の技術と素材の急速な発達が、デザイン感性の飛躍をバックアップ。これにより海外SF特撮作品にはリアリティに満ちたクリーチャーが続々登場して注目される様になってきており、『80』の怪獣たちにも、その影響がジワジワと波及してきていました──これは筆者の主観ですが、これらを受け、色彩感覚と細密な表皮表現で最初のピークに到達したのは、サラマンドラではなかったかと思うのです。
(この辺り、前駆者であるタブラやガビシェールの功績をスルーは出来ないのですが、それはまた別の機会に!)
この〈大怪獣シリーズ〉的視点によるプロポーション構築のためのアプローチによって、サラマンドラの表皮に全体にめぐらされた、五角形の積層した立体パターン (再生する細胞~細胞壁の抽象化でしょうか?) が、玩具にみられた造形的モールド再現ではなく《再生怪獣サラマンドラ》という生命体特有の紋様として正しく伝わってくるのが感じられてきます。
更には、これを浮き立たせるようでいて決して強く主張せず、全体としてはサラマンドラという怪獣の威容や凄味に決着させる、前述の様な「ディティールではなく紋様」なのだという、塗装術の匙加減には、感動的な期待がわき上がりました!
また、サラマンドラの造形で見逃せないのが、熊手の様な形状をした尻尾の先端があります。ここはビル街の中で猛威を奮う状況では全く気付かず (気付かれず!)、エイティに投げ飛ばされ尻尾が跳ね上がって初めて判明する、ある種サプライズ的なポイントです。
そうです、サプライズ的なポイントと言えば、もうひとつ! サラマンドラには頭を上に向けなければ確認出来ない、唯一の弱点・喉があります。
これも前述しましたが…仮に先の五角形パターンをサラマンドラの全身を覆う細胞壁と捉えれば、喉はいかにも軟らかさを感じさせ、皮膚が外部にさらされているかの様な印象です。
つまり、誰の目にも弱点感を抱かせる、特殊で特有な “質感” も〈大怪獣シリーズ〉は見逃していません。
加えて特に塗装で注目したいのが、サラマンドラの爪への観察眼です。キャラクタースーツとしての爪へのアプローチには、その時々に求められた演出意図などによって造形材料が選択されていきますが、その材料や下地の処理方法によって、塗料のノリ具合も微妙に変化します。
今回のサラマンドラは、そのノリ具合も注視しているのが感じられてゾワゾワっとキマシタ‼
これら、いくつものポイントの〈大怪獣シリーズ〉としての構築は、サラマンドラというテーマに向き合う誠実さ、確かさの証明ではないかと感じているところです。
また、そこには実際に撮影用の怪獣に接した経験多数の外島さんならではのアプローチもしっかり生きていると確信しています!
来年は遂に『ウルトラマン80』45周年を迎えるこの好機! 〈大怪獣シリーズ〉サラマンドラが、あなたのお手元で猛威を奮うのも間もなくです‼
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