筆者:秋廣泰生
ライター/映像演出家。元・円谷プロ製作部所属。1980年代後半より、ウルトラマンシリーズをはじめ、円谷プロ作品の映像商品の制作や、出版物、CDの構成執筆を手掛ける。VHS時代の再編集ビデオの殆どで編集・演出を担当。テレビ番組演出は『ウルトラマンボーイのウルころ』『ウルトラマン列伝』など。
多彩な攻撃手段を持つ強者超獣が大怪獣シリーズに登場!
今回は〈路地裏の散歩者〉を担当させていただくようになって、初の“超獣”の紹介となります。『ウルトラマンA』第18話「鳩を返せ!」に登場する、大鳩超獣ブラックピジョンです。

〈路地裏の散歩者〉読者の方々ならば説明不要とは思いますが、まずは “超獣” についての説明を。超獣とは異次元人ヤプールが宇宙生物と地球の動植物を〈超獣製造機〉によって合成して生み出した、異次元の生物兵器の総称です。
ブラックピジョンは、その名からも分かる通り、三郎少年の飼っていた鳩の小次郎の脳髄が宇宙生物に移植されて誕生しました。
超獣製造機の初登場は第6話「変身超獣の謎を追え!」で、ワニと宇宙怪獣の合成によって変身超獣ブロッケンが誕生しています。第6話の監督は第18話と同じ真船禎さんでしたから、宇宙の命も地球の命も軽んじる超獣製造機が、再び作劇に活かされた形です。
鳩の脳髄がヤプールに利用されたのは、鳩が自分の営巣場所から遠く離れた場所で放たれても、きちんと営巣場所に戻ってくる〈帰巣本能〉に目をつけられたからでした。

無人機の開発にあたっていた超獣攻撃隊TACは、北斗星司隊員の提案により、帰巣本能を持つ鳩が優先的にテストされる事になるのですが、これを嗅ぎ付けたヤプールが、鳩のTAC基地到着と思わせて、ブラックピジョンによる奇襲攻撃を仕掛けようと目論んだことが発端でした。
劇中で小次郎と呼ばれる鳩は、伝書鳩として活用される様な専門的な訓練を受けた個体ではなかった様に見受けられますが、三郎少年との信頼関係によって、伝書鳩同様のはたらきをみせてくれます。

筆者の記憶を振り返ると、あの当時、個人で鳩を飼う方々は少なくなかったように思います。例えば『ウルトラマン』第23話「故郷は地球」や『帰ってきたウルトラマン』第1話「怪獣総進撃」で、鳩を飼う少年が描かれていますが、当時の鳩を飼うための環境や設備などは、劇中のイメージで捉えて差し支えないと思います。
ということは…「鳩を返せ!」での三郎少年の住まいは、昔ながらの木造住宅が密集する地域でしたから、壁越しでも意外と聞こえてくる鳩の鳴き声や飼育臭などが近隣からの苦情を招くのは間違いなく、1羽だけとはいえ、鳩を飼う環境に無いのは残念ながら明らかでした。
また、劇中では鳩の病原菌の保持が指摘されています。ということは病原菌の媒介の主になってしまう可能性もあった訳です。
もっともそれは、何も鳩に限った話ではなく、筆者の小学生時代には、あの小動物も、この小動物も…と、同様の注意喚起がなされていたのが思い出されるのですが、令和の世では「動物とふれ合ったらキチンと手を洗いましょう」といった具合に、万一の要素は正しく恐れることが一般的となっているのは言うまでもありません。
さて、今回の主役・ブラックピジョンです。
その全身像の印象をひと口で表現するならば、戦闘武装をまとった鳩でしょうか。
第18話以前に登場してきた超獣は、基になった動植物の外見が増幅したイメージを持っていました。さぼてん超獣サボテンダー (第12話) や、大蟹超獣キングクラブ (第15話) などは、その名称や別名と共に好例と言えるでしょう。

一方でブラックピジョンの場合は、全身像こそ鳩を想起させるシルエットで形成されていますが、胸部に鳩のイメージには無い、不自然に巨大な突起物を備えています。ウルトラマンAとの戦いではこれを射出。Aは直撃こそ免れましたが、その結果、背後にあったガスタンクが破壊され、大爆発を招いてしまいます。
それはサボテンダーが不意に体のトゲを射出する、ある種の隠し武器を備えていたのとは違う、一見して明らかな大型武装と呼べるものでした。
ブラックピジョンは、出自が鳩と明確でありながら、鳩とは一線を画するアンバランスさを備えた存在でもありました。
それでは〈大怪獣シリーズ〉のブラックピジョンについて、みていきたいと思います。

今回、ブラックピジョンの造形を手掛けたのは、原形師の判治靖郎さんです。
〈大怪獣シリーズ〉を担当する原形師の方々は、みなさん写真や映像から生き写しの如くの《リアル表現》に長けているのは言うまでもありませんが、そこに “怪獣” をひとつの生命体として生き生きと感じさせ、ディスプレイが主となるであろう20数センチ大のフィギュアへ形成していくための《リアリティ表現》には、対象となる “怪獣” の何処をどの様に捉え、造形に反映させていくか、それぞれの感性と秘技がある様に思います。
例によって、これは筆者なりの視点ですが、怪獣の〈リアリティ表現〉には、外見の中に、演じるスーツアクターさんの骨格を核であり芯として見出だし、全身像を構築していくか、または、怪獣の全身像そのものを特異な外見の生物を構成する要素として捉え、想像力をはたらかせて未知の骨格・皮膚感を見出だしていく手法とがある様に感じています。
そして筆者の感じる〈大怪獣シリーズ〉のブラックピジョンの造形には、その両方が絶妙なバランスでミックスされている様に思えるのです。

特にブラックピジョンの場合は、本来TAC基地の奇襲攻撃が使命であった超獣ならではの屈強さと共に、鳩のイメージから来る特有の浮遊感、あるいは繊細さ、か弱さに加えて、決して透けて見えてはこない内面を顔に刻むための表現が、造形上の肝であると考えられます。
前述した胸部の突起も含め、ブラックピジョンについて、TACやAを追い詰める程、総合的に高い戦闘力を持った存在として捉えるのか、あるいは、変わり果てた姿ながらも少年の思いがこもった悲劇的な存在として捉えるか──恐らく〈大怪獣シリーズ〉のユーザーの方々にとっても、ブラックピジョンに対しては、それぞれに両極の眼差しがあることでしょう。
そんなアンバランスさをたたえたブラックピジョンの表現について、判治さんのアプローチは、技巧を感じさせることなく、そのどちらにも自然と寄り添うことに貢献していると思えるのです。
そして〈大怪獣シリーズ〉としての重要なポイントとなるのが、眼の表現です。

ブラックピジョンの眼は焦点が定まっていない様に見受けられます。これは、かつては鳩であった痕跡である以上に、地球の生命体としての自我が喪失している表現だと思えます。
ブラックピジョン以前に登場してきた超獣たちは、設定的には異次元の生物兵器とされヤプールの命令で行動し、特殊能力や武器を備えつつも、特撮班としては、従来の様な怪獣と変わりなく、意思を持った存在として演出しているのが感じられます。
顕著な例として挙げられるのが、眼を意識した顔のアップです。
超獣は、ヤプールの尖兵として破壊活動に徹する無機質な破壊の権化ではなく、標的である高層ビルに反応し、空を行くTAC機に狙いを定め、Aを威嚇する視線を見せつけていきます。
その事を意識してブラックピジョンを振り返ると、その顔であり眼の異質さに気付かされます。
また、顔の要素のひとつであるクチバシも、実際の鳩とは違って鋭さは皆無であるなど、総じて戦闘力や攻撃性は感じられません。
ですが、それこそがAを油断させる偽装であるとの解釈も成り立つ部位でもあるのでしょう。

これら複雑に絡んだ要素への判治さんのアプローチを第一段階とするなら、第二段階となるのが〈大怪獣シリーズ〉が培ってきた塗装術です。
端的に言えば、ここには造形と塗装の合作であり、コラボレーションが存在する──そんな思いを抱かずにはいられません。
突き詰めれば、劇中に登場するブラックピジョンは、何故この様にデザインされ、何故この様に造形されたのか。そして、どの様な存在として息づいていたのか。
更にはそうしたブラックピジョンを、どの様に受け止め、理解するか──そんな果てのない試行錯誤が配色となり、陰影になっていると思うのです。
このブラックピジョンを、並み居る〈大怪獣シリーズ〉の超獣たちの中に立たせれば、ブラックピジョンの特異性は、より際立ってくることでしょう。
そして反対に、ただ1体超獣を手にするのならば、ブラックピジョンこそが、地球の生命体が蹂躙された結果を色濃く残し、地球人にとって超獣の本質を突きつけてくるオブジェに成り得るのではないでしょうか。
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