飯田峠に住む氷超獣! アイスロン登場!!

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筆者:秋廣泰生
ライター/映像演出家。元・円谷プロ製作部所属。1980年代後半より、ウルトラマンシリーズをはじめ、円谷プロ作品の映像商品の制作や、出版物、CDの構成執筆を手掛ける。VHS時代の再編集ビデオの殆どで編集・演出を担当。テレビ番組演出は『ウルトラマンボーイのウルころ』『ウルトラマン列伝』など。

ウーを蹴散らしAに挑む!アイスロン登場!!

今回紹介する〈大怪獣シリーズ〉のニューフェイスは、氷超獣アイスロン! 『ウルトラマンA』第42話「冬の怪奇シリーズ 神秘!怪獣ウーの復活」に登場しました。

 このサブタイトルにもあるように、物語のアピールポイントは『ウルトラマン』第30話「まぼろしの雪山」に登場した伝説怪獣ウーの “復活” にあり──厳密には、かつてのウーとは別個体で、データ上では “二代目” と分類されます。なお、ここでは “二代目” の表記を略させていただきます──、当時から現在に至るまで、アイスロンは、復活したウーの対戦相手として語られることも少なくないのですが、見方を変えればアイスロンは、ウーとの対戦を前提にした個性を持って創造されてきた<超獣>であると言えるのです。

 そして対戦の背景になる物語上の立ち位置で捉えた時、ウーは人間の側につく存在で、アイスロンは人間を襲い遮る存在だと言うことができます。

 ここからは、そんなアイスロンだからこそ持ち得た数々の個性について迫ってみたいと思います。

 まずは全体の印象です。当初よりウーの対戦相手であることを想定したアイスロンの外見には、まず、ウーとは対照的なシルエットであることが求められたことが想像されます。

 『ウルトラマンA』は第7話のサブタイトル「怪獣対超獣対宇宙人」に象徴的に謳われている〔怪獣〕の代表として登場する巨大魚怪獣ムルチ (二代目) 、〔超獣〕の代表として登場する蛾超獣ドラゴリー、〔宇宙人〕の代表として登場する幻覚宇宙人メトロン星人Jrのように、同じ画面に3体が出てきても、ひと目で見分けがつくよう、色彩や形状に明瞭な差別化が行われていました。

 こうした視覚的な差別化は、マザロン人とマザリュース (第24話) 、カイマンダとシシゴラン (第41話) など、1エピソードに複数が登場してくる場合にもあてはまり、それぞれに主な視聴者である子どもたちの興味を引き付けようという工夫を感じることが出来ます。

 第42話でのウーの場合は、既にサブタイトルに名前が挙げられるほどの認知度がありますから、基本的な姿形や『ウルトラマン』での登場時に語られていた、人間が雪の精に変化 (へんげ) したニュアンスは踏襲されていくことになります。

 対するアイスロンは劇中、飯田村に伝わる “飯田峠の神様” と語られ、豪雪の中、峠を越えようとする人々に襲い掛かります。言わば、雪深い山奥の荒神様か祟り神のような存在です。

 双方のこうした違いから、アイスロンには恐れ多い御神像のようなニュアンスでイメージが導き出されていったように感じられます。

 白い全身像の印象の中に、寒色であるブルー系を下地に据えることで、氷超獣の別名通りの冷たさ・寒々しさを湛えた、まさしく畏怖の対象です。

 また、畏怖の対象という観点からは、面妖な仮面を想起させる顔に赤い光を発する3つの眼を持つという、非常に興味深い配色のアイディアにも注目です。

 それは、アイスロンが現れる前提条件である豪雪や猛吹雪の特撮に、人間を狙うための重要な部位である目の存在感が埋没してしまうことを回避する工夫と言えます。

 そもそも豪雪や猛吹雪を特撮で描き出すため、特殊技術 (特撮監督と同義) にベテランの高野宏一さんを招聘しているのですから、企画スタッフ陣の想像を越えて、ドラマにリアリティをもたらす迫真性で雪の特撮が展開される可能性が充分に考えられるのですが、そこに、白に埋没することの無い赤色を投入出来るのが、まさに空想特撮の美術の面白さです。人々を目で見て狙うさまや、人ならざる異形の者を強調していく、作劇の意図に合致した<超獣>を生み出す創意工夫のポイントです。

 こうした色の工夫は、DVDやBlu-rayの視聴に対応する、解像度に優れた現在のモニターに効果的にあらわれていますが、『ウルトラマンA』初放送当時の、必ずしも画面が大きくないブラウン管テレビでの視聴環境にも、アイスロンの不気味な怖さや威容を着実に伝えていく効用をもたらしていたのは言うまでもありません。

 また、第42話でのウーは全身が白い長毛に覆われており、直立した状態であれば、毛は全て下方向に垂れ下がります。そして、ひと度アイスロンとの大格闘になれば、娘の小雪を思う一心で放つ打撃から長毛が勢いよく振り乱されます。

 つまり、ウーの演出には、静と動の差がつけやすいと言えます。

 これに対して、そんなウーを一蹴する役回りのアイスロンとしては、激しい打撃を受けたところで体躯はもちろん、内面が何ら動じていないことを表現する、カッチリとした全身のディティールが求められてきます。

 そこで注目したいのが、不揃いの薄い板状の破片を無数に植え付けていったかのような背部です。筆者はそこに、池などの水面に張った薄氷を割った破片を見出だし、これを密集させることで、その名の通りの氷超獣を体現してみせているのでは?と感じるのです。

 しかもこれら破片群 (?) は、アイスロンを正面から捉えた時に、背中に引き込んだ翼の先端が少し見えているようにも感じられないでしょうか?

 この見立ては、流石に筆者のアイスロン愛が過ぎる (笑) のを自覚していますが、荒神様の御神像に空さえ征服する躍動感をもたらすようで、子どもの頃から好きなポイントであることを、ここに告白してしまいます!

 しかも、これら前面から捉えた時の破片群のはみ出しの列は斜め後方を向いていて、ここにアイスロンを真上から見た状況を想像してイメージを重ねてみると、正面中央に向けたV字型のラインを成している錯覚が湧いてきて、一直線に人間に襲い掛かっていくアイスロンの性格が潜まされているように思えてなりません!

 …と、筆者の怪獣少年的妄想はともかく、現在の筆者の感覚でこれらを捉えてみると、前方から見える両サイドの破片群のはみ出しの列は、谷間にそびえ立ち、あるいは猛然と迫ってくるアイスロンに遭遇した人間が、谷間の隙間を完全に塞がれ、圧迫感におののく効果を生んでいるのが感じられてきて、まさに雪山の美術設計との相乗効果が見事と思えるのです。

 そしてアイスロンの腹部にある楕円形のレリーフ状にも、氷という観点からの思いが湧いてきます。筆者はこれを、家庭の冷蔵庫で作った氷の内部を抽象化したのではないかと感じています。

 例えば製氷工場で作られる氷は全体が透き通っていますが、家庭の冷蔵庫で氷を作ると多くの場合、中央に白い箇所が形成されます。

 この中央部が形成される理由は環境などによっていろいろですが、筆者を含む当時の子どもたちの感覚では、馴染みのある氷のありようでは無かったか、という思いがしています。

 ところで、白の単色に近い寒色系の全身像を持つアイスロンについて、筆者には、もうひとつ興味の尽きない観点があります。

 『ウルトラマンA』は初放送されていた昭和47 (1972)年から昭和48 (1973)年 当時、小学館から刊行されていた多くの学習雑誌で表紙を飾り、主力的に掲載されていたことをご存じの方々もいらっしゃると思います。

 読者の幼児・児童層にアピールするべく、カラー印刷によるページもふんだんに盛り込まれ、同時期に放送されていた特撮・アニメのヒーロー番組も数多く特集されていました。その誌面は、まさしく色とりどり。もちろん、ヒロインの活躍するアニメや、学習雑誌のオリジナルヒロインたちの鮮やかな色も踊っています。

 筆者は、こうした色に溢れた誌面の中で、数あるヒーロー・ヒロインたちにも色の主張で拮抗出来るよう、超獣たちはカラフルになっていったのではないか?という印象を抱いています。

 『ウルトラマンA』の先発超獣として活躍したベロクロン (第1話) やバキシム (第3話) を筆頭に、子ども感覚で表現するならば、お気にいりの24色入り色鉛筆を楽しみながら全色散りばめて生み出されていったのが《超獣》であったかのような、そんな感覚です。

 だから、アイスロンの配色には、ちょっとした驚きがあります。白や下地のブルー系は、地味な配色と紙一重の印象だからです。ですが、多彩に色が踊っている誌面だからこそ、逆に白こそが確たる主張をしてくるのかもしれない…とも、思えてくるのです。その意味で超獣の創造は、怪獣の創造よりも飛躍的に自由度が高かったのではないでしょうか?

 そんな空想特撮美術が生み出したアイスロンに〈大怪獣シリーズ〉としての造形に取り組まれたのが、増川デザイン工房の増川信二さんです。

 アイスロンは氷超獣としての造形や映像効果が効果的だっただけに、その実像を掴むのは至難の業であったことは、想像に難くありません。

 背部の無数の破片状の詳細なディティールについては、まず映像や写真資料から詳細を読み解き、把握した上で、あの絶妙な密集具合を再構築していくのは困難をきわめたそうです。

 しかも顔周りを囲む細かなヒダなど、アイスロンは体のあちこちに秘められた繊細なディティールが多く、その質感再現やバランスの取り方は、エクスプラスの担当者さん共々、苦心の分析の時間が費やされていったとのことです。

 そうした悩ましいディティールの集合体であるアイスロンに〈大怪獣シリーズ〉ならではのアプローチで迫ったのが、腕を回しながら突き進んでいく、動きの一瞬を捉えること。人々の歩みを遮るべく、足を踏み出し腕をふるう、アイスロンの意思と全身の骨格が連動しているさまを思わせる、畏怖の神様たる超獣の息吹きが現れているのです。

 筆者には、いつか『ウルトラマンA』の全超獣による〈大怪獣シリーズ〉が完結した時、登場順に並べた時のアイスロンの立ち位置は、果たしてどのような見え方をしてくるのだろう?と、そんな密かな夢想があります。

 もちろんアイスロン単独でも異彩を放つ独自性を持った存在であることは、これまでに記してきた通りですが、アイスロンを立体として多角的に捉え、幾多の超獣と比較してみることで初めて見えてくるものは少なくないだろうと、筆者は感じているところです。

 私たちに更なる<超獣>の魅力を引き出させてくれる可能性も秘めた〈大怪獣シリーズ〉アイスロンの出現に、どうぞご期待ください!

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